古来より海洋は、陸地に暮らす我々人類を結びつける自然のインフラであったとともに、時には災禍をもたらすものの、我々が生きていくに欠かせない塩や栄養豊富な食料などの豊かな恵みをもたらす存在でもありました。
そんな人類の歴史と密接に結びついた海ですが、近年はまた別の形で注目され始めているようです。それが「海洋葬」という新しい散骨の形。死後は土に還るかわりに、広い大海原へと帆を広げ旅に出るのです。
この記事では、そんな海洋葬の全体像をお伝えします。
山や海など自然の元で散骨する自然葬の一つで、火葬した遺骨を細かく砕いて海洋に散骨する方法です。
遺族や親族が遺骨と一緒に船に乗り込み海洋の目的地に達してから、海に向かって散骨します。遺族のみで船をチャーターする個別プランは比較的高額になりますが、他の遺族と一緒に船に乗り合わせたり、日時や場所を業者に一任する方法では費用もかなり抑えることができます。
日本の法律では遺骨は墓地に埋葬しなければならないと決められています。
埋葬というのは、遺骨を土中に埋めたり海洋に沈めたりすることです。しかし、海洋葬では、遺骨はそのまま海に投げ入れるのではなく、パウダー状に砕いた状態で散骨します。
埋葬方式が定められている法律は、今から約70年以上前に制定された「墓地埋葬法」です。当時は、墓地での遺骨の埋葬以外の形式を想定していなかったため、火葬や火葬後の遺骨の埋葬に関しての規定はありますが、自然葬などの散骨に対しての規定は定められていません。そのため、管轄となる法務省と厚生労働省が海洋葬などの自然葬に対しての見解を発表しています。
厚生労働省の見解では、法律に明文化されていないから、散骨は違法とは言えないという少し消極的なものに対して、法務省の見解では、散骨について違法ではないとはっきりと発表しているので、養殖場の周辺など禁止となっているところ以外では法律違反にならないと言えるでしょう。
海洋葬は自然葬の一つ。火葬後細かく砕いた遺骨を海に散布することで散骨する
法務省と厚労省は、どちらも法律違反とはならない旨の見解をしている。
海洋葬の各プランの内容について説明します。
一家族で船をチャーターし海洋葬を行います。参加する遺族の人数によって船の大きさが変わりますので、人数が多ければ費用も高くなります。船長と添乗員が搭乗するので、スタッフの人数やスキルによっても費用が変化します。業者によっては散骨後に船上で会食などのセレモニーを行うところもあります。
2~3組の家族が一緒に船に乗り込み散骨を行います。一つの船へ乗り合いする形式のために船を丸ごとチャーターする個別プランよりも価格は低くなりますが、複数の遺族が参加するため日程などの調整が必要となります。
散骨の場所や日時を業者に委託し、遺族の代わりに海洋での散骨を行ってもらうプランのため、費用は格安になりますが、遺族は同行することができません。海洋葬を行った時の写真などを撮影し証明書とともに後日遺族に郵送されます。
海洋葬の費用は散骨の方法や参加する遺族の人数などによって幅があります。
個別プラン | 150,000~400,000円 |
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合同プラン | 100,000~200,000円 |
委託プラン | 30,000~100,000円 |
費用の相場に差があるのは、海洋葬に参加する遺族の人数によって乗船人数が変わるため船の大きさが変わってきたり、散骨する場所が沿岸から離れている場合や、海洋葬を行う業者と散骨する海洋の距離が離れている場合などで価格差が生じるからです。
海洋葬の一般的な流れを紹介します。
海洋葬は、具体的に以下のような流れに沿って進められます。
既に亡くなられた人の申込みも、生前予約も行うことができます。
亡くなられた方の場合は、申込と一緒に葬儀費用を支払いますが、生前予約の場合は業者によって、全額を予約金とするものと、一部を予約金として預ける形があります。
亡くなられた人の遺骨を散骨するために、火葬場で発行される埋葬許可証を業者に提出します。既に、墓地に納骨されている遺骨を墓から取り出して散骨するならば、墓地を管理している業者や寺院から納骨証明書を発行してもらいそれを業者に提出します。
届いた遺骨をパウダー状に粉砕する必要がありますので、業者が自宅を訪問し遺骨を引きとりにきます。業者から距離が離れている場合は、郵送の指示が出ることもあります。
遺骨を業者が機械でパウダー状に加工します。墓に埋葬後の遺骨を取り出した場合は土などが遺骨に付着していることもありますので、骨洗いというサービスをオプションで行っている業者もあります。
パウダー状に加工して乾燥させた遺骨は、海洋葬当日まで業者にあずかってもらうことも、一度自宅で保管して当日に持参することもできます。
散骨する海洋の場所と日時を決定します。申込の時に予め希望の場所を業者に伝えておくのでそれを元に料金が決まっていますから、場所を変更する場合は費用が変更になる可能性もあります。合同で実施する場合は、船に乗り合うことになる他の家族と日程を調整します。
指定された場所に集合し、遺族は乗船し海洋の散骨場所へ向かいます。遺骨と一緒にお酒や花を用意する人も多いようです。それ以外の故人の愛用品も散骨とともに海に投げ入れていいかについては、物によってはできない場合があるので業者に確認した方がいいでしょう。
船上にて、散骨前に添乗員から挨拶があり、合図とともに散骨を開始します。散骨した後はその場所を船で周回して、献花や献酒、黙祷を行います。その後船は帰還しますが、業者によっては船上で会食を行うところもあります。
後日、業者から「散骨証明書」が郵送されます。海洋葬に遺族が同行せず、委託散骨を行った場合は、散骨時の写真や散骨された地点の海図なども郵送されます。
墓地に埋葬した時と違い、お盆や一周忌などにお墓参りに行くことはできませんが、業者の中にはメモリアルクルーズと称したプランを用意しています。散骨された場所に再び船で向い周回するクルーズプランになります。
海洋葬にはどんなメリットがあるのでしょうか? そしてデメリットになるようなことも知っておいたほうがいいでしょう。
海洋葬を希望する人の多くが、亡くなった後は自然の一部になりたい、自然に還りたいと希望しています。生命の源となっている海に散骨することで、故人は自然に還るという願いを叶えることができます。
墓地へ埋葬するには、墓地の区画の購入と墓石を購入しなければなりません。墓地の立地条件や区画の広さ、墓石の材質などにもよりますが、概ね100万円程度の費用がかかるのが一般的です。
海洋葬の場合は、暮石などの購入が必要ないので、費用をかなり安く抑えることができます。業者に一任する代理プランでは最安値で10万円を切るものも出ていますので、費用を抑えたいと考えている方にとっては大きなメリットとなります。
墓地に埋葬すると墓の継承が必要になります。墓を継承した子孫や親類は、墓の管理費用を支払わなければならず、お盆やお彼岸など墓の管理をしなければなりません。
海洋に散骨する方式ならば、その後の管理費や継承などがいりませんので、子孫に対して将来的な負担をかけることはないです。少子化により、子供がいなくて自分の墓の管理について悩んでいる人も、墓地や墓石が無ければ悩むこともありません。
墓地に埋葬するならば、その寺院の檀家になるとか、宗派によって決められた場所に埋葬されますが、自然葬の形式ならば、生前の信教にとらわれることなく供養することができます。
最近では、ペットと一緒に入れる墓地も出てきましたが、やはり多くの墓地は人間用とペット用に分けられています。生前に子供のように愛していたペットと一緒に埋葬してあげたいと考えても希望が叶えられないことは多いですが、海洋葬では、ペットの遺骨と一緒に散骨することにより、故人とペットのどちらも自然に還り永遠に一緒にいられることができるでしょう。
故人の遺骨は海へ還りますので、墓地で埋葬する時のように、お盆やお彼岸などにお参りする墓標がありません。心の拠り所がなくなり、寂しいと思われるかたもいらっしゃるかもしれません。
しかし実際には海洋葬には分骨の方式もありますので、墓地に埋葬されている遺骨を分骨して海に散骨する方法ならば、自然に戻りたいと希望する故人の願いと、墓標が欲しいという遺族の希望のどちらも叶えることができます。
自然葬を行う方は年々増えていますが、それでもまだ、多くの方は遺骨を墓地に埋葬することが常識と考えています。親族の方の中には、自然葬という葬送方法を理解してくれない方がいることも多いので、自分が海洋葬を希望する場合や、両親を海で送りたいという場合には、理解してくれない親族に対して説得する必要が出てきます。
遺骨をパウダー状に加工して海洋に散骨するので、その後に遺骨を手元に戻すことは不可能です。後になってから考えが変わって、遺骨を戻したいと思われることがないように、散骨方法に決定する時には時間をかけて考えるのがいいでしょう。
海洋葬は死後自然に還ることができる散骨方法として、お墓の継承や経済的な問題に悩む人々の支持を集めています。
海洋葬一つとってもさまざまなプランがあり、業者によっても費用やメリットなどが分かれます。様々な選択肢をよく吟味して決めるのが良いでしょう。
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