死後に遺骨を海へ撒いてもらう海洋葬。子孫にお墓の管理を負担させることなく、自然に還ることができることから注目の新しい散骨方法です。
しかしロマンあふれる響きはいいものの、心配なのが埋葬などについてのルールを定めた法律の存在。海洋葬をすると法律違反になるのではないかと心配する方は、一定数いらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、海洋葬に関する法律上の問題について、そして海洋葬を行うにあたって注意すべき点を解説しています。
少子高齢化に伴って、墓地を守る後継者がいない方や、自然に還りたいと考えを持っている方が、海洋葬を希望しています。
しかし、海洋葬を選ぶ際に発生する問題として、墓地埋葬法と刑法第190条に抵触して、遺骨遺棄罪や死体遺棄罪に問われてしまわないかということが出てきます。
結論からお話しすると、海洋葬は法律違反ではありませんが、海洋葬に関する理解を深めないまま散骨してしまうと、法律違反に該当しうるため注意が必要です。
墓地埋葬法とは、墓地や埋葬に関して決められている法律で昭和23年に制定されました。内容としては、埋葬や火葬、納骨堂や火葬場などについて定められています。
埋葬や火葬を行うにあたり、衛生上の観点や宗教的な考えを踏まえた上で、問題なく執り行うために定められている法律です。
墓地埋葬法の第4条には「埋葬又は焼骨の埋蔵は墓地以外の区域に、これを行ってはならない」という条文があります。そのため、散骨行為が「墓地以外の区域への埋葬」に該当してしまい、遺骨遺棄罪に問われないかという問題が出てきてしまうのです。
このような疑問に対して、厚生労働省は「墓地埋葬法に記載されている条文は、散骨を対象としていない」と回答しました。そのため、散骨は墓地埋葬法の法律違反には該当しないようです。
刑法とは、刑罰を科せられるべき行為である犯罪を規定した法律をいいます。この法律を違反してしまうと、刑罰が科せられてしまうため注意が必要です。
刑法第190条には「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する」という条文があります。そのため、遺骨を粉末にして散骨するのは「遺骨の損壊・遺棄」に該当して、死体遺棄罪が問われないかという問題も出てきてしまうのです。
1991年NPO法人「葬送の自由をすすめる会」が1回目の散骨を実施した際に、法務省刑事局に問い合わせたところ「葬送を目的として個人が節度を持って行う分には、遺棄罪にならない」と述べました。そのため、散骨は刑法第190条に抵触しないようです。
厚生労働省は散骨は墓地埋葬法の法律違反には該当しないとし、法務省は個人で遺骨を粉末にすることを違反でないとしている。
法律違反にならないという見解が出ているとはいえ、節度をもって行わないと法律違反になる可能性もあるので注意が必要。
ここでは、海洋葬を行う際に把握しておきたい注意点について解説します。
海洋葬を考えるにあたって、以下のような点には注意が必要でしょう。
厚生労働省や法務省が「海洋葬での散骨は法律に抵触しない」と述べたとお伝えしましたが、その見解は非公式なものです。中央省庁の公式サイトで検索をすると、散骨が法律に抵触しないという見解は見つかりません。そのため、散骨が合法とされている根拠は不確かなものであり、何かのきっかけで解釈が大きく変わってしまう危険性も潜んでいます。法律違反ではないと述べていても、それらは非常に曖昧なものであると解釈しておきましょう。
散骨は非常に新しい葬送方法のため、現在の法律が完成した際には存在していませんでした。そのため、散骨に関する法律の制定に間に合っていないだけの恐れもあるのです。そのような理由により、散骨自体は法律違反に該当しないと決めてしまうのは危険です。
2019年6月時点でも、散骨に関する法律は存在しません。法律が存在しない理由として挙げられるのは、散骨に関する法律を制定してしまうと、国民に宗教的な制限をかけしまうことになり、また自治体の整備の法律の改正を行わなければいけないことなどがあります。
しかし、海洋葬などの散骨を希望している方は増えています。自然に還りたい方や墓地の後継者がいない方などが、海洋葬を希望しているのです。生涯未婚者の増加に伴い、今後は散骨を希望する方は増えていくとも予測されています。このように、たくさんの方が散骨を希望するとなると環境保護の目的も兼ねて、法律ができる可能性もあります。
1997年から1998年の間に「これからの墓地等の在り方を考える懇親会」が全12回開催されました。この懇親会でも、散骨に関する法律を制定するかどうかが議論されましたが、各地域による宗教を尊重することと、海洋葬などの葬送を希望する方が増えてきてトラブルがたくさん出てきた場合に法律を策定するという話で終わっています。この懇親会が行われた後に、散骨に関する規制を設定した地域も登場しました。
実際に、北海道の地域では樹木葬のサービスが登場した際に、地域の住民から苦情が出ました。その関係で散骨禁止条例が完成しており、この条例を破ると懲役6ヶ月、10万円以下の罰則が与えられると決められています。そのため、海洋葬を行う場合は、その地域の宗教的な考えを把握して、散骨が違法に該当しないか確認しておくことが大切です。
散骨が、刑法第190条の法律に違反しないかの争点に、法務省は「節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪には該当しない」と非公式見解を述べています。
しかし、あくまでも非公式なものです。そのため、散骨する場合は骨を粉末状にすること、環境問題や周囲の人に配慮することが求められます。これらのルールを守らなければ、法律違反に該当してしまう危険性があるため、注意しましょう。
海洋葬など自然葬を希望する方が増えている関係で、海洋散骨業者も増えています。墓地埋葬法第4条や刑法第190条の法律に違反しないと述べられていますが、いつ法律が制定されるかは分かりません。また、地域によっては、宗教的な考えのもと散骨を禁止しているところもあります。
海洋散骨業者は、散骨を行うことによって収益をあげています。さまざまな会社がありますが、売上目的で平気でガイドラインに違反する業者もいるため、信頼できる業者を選ぶようにしましょう。また、散骨に関するガイドラインを知らないまま、海洋散骨業者に依頼してしまい、法律違反をしてしまうと危険性も否めないため注意しましょう。
いかがでしたでしょうか。生涯未婚率の増加や費用の問題、子孫に負担をかけたくないという理由から海洋葬を希望する人はますます増加すると予想されます。
死後に自然に還れるという魅力的な一面がある一方で、海洋葬は比較的新しい散骨方法であるため、国の法律や地域ごとの事情が絡んだ複雑な面も持ち合わせています。デメリットも認識しておくに越したことはありません。