新型コロナウイルスによる感染者数も70万人を超え、死者数も1万人を超えてしまいました。いつどんなとき、となりの人が亡くなってしまうかわからない。悔いの残らない日々を送る重要性は、コロナ禍でより強くなったように感じます。
現在は北陸地方にお住まいのMさん(仮名)も、お母さまを新型コロナウイルスで亡くされました。実はそのお母さまは、縁を切った人だったそうです。
母が新型コロナに感染し、病院で危篤状態だとの連絡を受けました。正直、よく見つけたなと思ったのが第一印象です。幼少の頃両親が離婚して、母一人子ひとりで暮らしていました。シングルマザーって本当にお金ないんですよね。誕生日を祝ってもらうことはもちろん、学校の行事とか、給食費でも結構苦労しましたよ。
高校の時に再婚しましたが、義理の父と折り合いが悪くて……。家を出て暮らすことになりました。幸い地方の銀行に就職できたんですが、それが裏目。安定職にいるんだからと母が金の無心が来たこともありました。どうも義父もあれだったみたいです。
そのころ結婚を考えていたこともあり、もう縁を切ってしまいました。今の夫と結婚して、二人の子どもに恵まれて……忙しかったので、母のことはほとんど思い出さなかったです。
嫌な思いや苦労って消えないまま残るじゃないですか。意識不明で危篤状態と聞いても、面会に行く気もなかったですし、お骨を引き取るのもごめんでした。でも夫が、最期くらいは挨拶に行ってもいいんじゃないか、自分の心の整理がつくよ、と。車を出して病院まで送ってくれました。
ベッドに横たわる母は、全く別人みたいでした。もちろん触れたりはできませんよ。やせ細って、げっそりと頬はこけてますし、記憶よりずっとシワもシミもある。看護師さんが、見舞いに来た人が初めてだと言っていました。どうも義父とは離婚していたみたいです。会いに行った数日後、亡くなったという連絡をもらいました。
涙は出なかったです。ただ、子どものおもちゃを片づけていて、ふと母がくれた誕生日プレゼントを思い出しました。野草っていうか、野花を摘んで花束にしてくれてたんですよ。あとは勉強に必要なノートくらい。友達がキャラクターグッズとかお洋服とかもらってるなか、あんまり嬉しくないけど、気持ちは有りがたかった。母は花が好きだったんでしょうね。散歩すると花の名前をいつもあげてました。自分をこの世に生み出した人が、いなくなったんだ、という実感がそのときわいてきて……。
夫が「火葬くらいはしてあげたら」と言ってくれたこともあり、直葬という、通夜も告別式も行わない葬儀だけはやることにしました。葬儀社さんにも一応お願いして……そのとき、棺に花をいっぱい入れられないかと聞いてみたんです。まあ、それくらいないいかなと思って。
葬儀社の方、リクエストを聞いてくれて、真っ白だけじゃなくて、色のバランスがよくなるように花を選んでくれました。コロナで亡くなると、袋に入ったままの納棺(※)になるんですけど、最期のときより、よっぽど幸せそうな姿で、花でいっぱいにしてあげて良かったなと感じました。
※非透過性納体袋。新型コロナウイルスによるご遺体の接触感染を防ぐ目的がある
不義理を詫びる気はありません。ただ、最期の最後に、ちょっと親孝行できたのかな、と思います。
死亡原因が新型コロナウイルスでもお見送り、または直葬は行なえます。 Mさんのように、故人との関係にご事情がある場合、直葬を選ぶケースが比較的多くなります。
最期のお別れはどんなときもただ一度です。大切な時間を花で彩ることで、Mさん自身も心の整理ができたのではないでしょうか。
葬儀の知識やマナーなどのオリジナルコラムも配信しています。