相続放棄とは、亡くなった方の財産を相続しないことにする手続です。亡くなった方に借金があった場合、相続人が相続放棄の手続をすると借金を引き継がず、返済を免れることができます。他にも、被相続人が誰かの保証人になっていた場合や、遺産分割の争いごとに巻きこまれたくない場合、特定の相続人に全ての遺産を相続させたい場合などに相続放棄の手続が行われます。
相続放棄をするためには、家庭裁判所で正しく手続をしないと法的な効力がありません。ただ、裁判所での手続というと、専門的で難しいというイメージをお持ちの方が多いかもしれません。
正しく相続放棄の手続をするためにはいくつかの注意点があります。その注意点さえ押さえておけば、相続放棄の手続は意外に簡単で、ご自分でも行うことができます。この記事では、相続放棄の手続の流れ、やり方、必要書類、期限について解説します。これを読みながら準備を進めていけば、ご自分でも相続放棄ができるようになっていますので、参考にしてみてください。
相続放棄のやり方について解説する前に、相続放棄の手続き全体の流れを簡単に解説します。
相続放棄の手続はそこまで難しいものではありませんが、3ヶ月以内という期限があるため、できるだけ早めに準備を進めなければなりません。期限の問題については、後ほど詳しく解説しますので、まずは相続放棄の手続全体の流れとスケジュールを紹介します。
相続放棄手続の流れとスケジュールは、おおよそ以下の通りです。
相続放棄の流れ | 必要期間 | |
---|---|---|
① | 相続財産の調査 | 1日~1ヶ月 |
② | 必要書類の収集 | 1日~1ヶ月 |
③ | 家庭裁判所へ書類を提出する | 1日 |
④ | 家庭裁判所からの意向確認 | 1週間~数週間 |
⑤ | 相続放棄の手続完了 | 数週間~1ヶ月 |
①から⑤まで、相続放棄の手続きを完了するまでにかかる期間はケースごとに異なり、早ければ数週間程度です。しかし、長ければ3~4ヶ月かかることもあり、相続放棄ができる期限である3か月を過ぎてしまうこともあります。特に、①「相続財産の調査」と、②「必要書類の収集」に多くの時間がかかることがあります。
相続放棄にかかる費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。
相続放棄の流れ・スケジュールは、先ほど紹介した通りです。ここでは、相続放棄のやり方について詳しく解説します。
相続放棄をすると、借金などのマイナスの財産を引き継がなくてすみますが、預貯金や不動産などのプラスの財産も引き継ぐことができなくなります。しかも、詐欺や強迫で手続をさせられた場合などを除いて、一度相続放棄をすると、撤回や取消しはできません。そのため、相続財産をプラスもマイナスも含めてよく調べておく必要があるのです。
被相続人の生前から相続人が全てを管理していたような場合であれば、相続財産の調査にほとんど時間はかかりません。しかし、被相続人と遠方に住んでいたり、疎遠だったりした場合は手間がかかるケースも多くあります。金融機関に問い合わせをしたり、法務局で名寄せ帳を取り寄せたりなど、さまざまな調査が必要になることもあります。
一般の方が仕事などをしながらこういった調査を進めるのは大変です。時間もかかりますし、入念に調べるのであれば1ヶ月以上かかるケースもあります。
しかし、どれだけ調べても完璧に相続財産を把握するのは不可能なケースもあります。そんな場合でも、どこかのタイミングで相続放棄をするのかどうかを決断しないと後の手続が間に合わなくなります。
得体の知れない負債が多くありそうな場合は、ある程度プラスの財産があったとしても相続放棄をしてしまった方が安心なケースもあります。ある程度のプラス財産があるけれど、マイナス財産がどれくらいあるのかよく分からないという場合は限定承認をするという方法もあります。
ただ、限定承認の手続はかなり煩雑で、一般の方がご自分で手続するのは大変です。相続放棄すべきかどうかが悩ましい場合は、早い段階で弁護士や司法書士などの専門家に一度相談しておいた方が安心できます。
無料相談をしている事務所も増えていますので、相続放棄をした方がいいのかどうか、これからどのように進めればいいのかなどについては、弁護士や司法書士といった専門家の意見を参考にしましょう。
相続放棄を家庭裁判所に申述する前には、必要書類をあらかじめそろえておく必要があります。
簡単なケースなら急ぐ必要はありませんが、複雑なケースでは相続放棄の必要書類がそろうまでに最短でも1ヶ月以上かかってしまうこともあります。そのため、相続財産の調査と並行して必要書類の収集も進めておくことが望ましいです。
相続放棄申述書とは、相続を放棄する意思を家庭裁判所に申し出るための書類で、相続放棄をするために必要な書類です。相続放棄申述書は、全国の家庭裁判所にひな形が置いてあり、裁判所のホームページからダウンロードして使うこともできます。
そのほかの戸籍謄本などは、本籍地のある市区町村の役場で取得します。遠方の場合は郵送で取り寄せることもできます。郵送で取り寄せる場合は手数料分の定額小為替を同封することになるので、対象となる役場に手数料を確認した上、郵便局などで定額小為替を購入しましょう。
また、ケースによってはこの4つ以外に追加で書類が必要になるケースがあります。以下で、追加で必要書類が必要になるケースをいくつか紹介します。
亡くなった方の孫が相続放棄をする場合というのは、本来は亡くなった方の子(孫の親)が相続するはずだったが、相続開始時に亡くなった方の子(孫の親)が既に亡くなっている場合です。(このような場合、孫を代襲者、被相続人の子(孫の親)を被代襲者と呼びます。)
このような場合に、亡くなった方の孫が相続放棄をする場合には、孫の親が既に亡くなっていることを証明しなければなりません。そのために、孫の親の死亡の記載がある戸籍謄本が必要になるのです。
亡くなった方の父母が相続放棄をする場合というのは、亡くなった方に配偶者や子、孫がいないか、相続開始時に既に全員亡くなっている場合です。その事実を証明するために、上記の戸籍謄本が必要になります。
人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を取得するのは、大変な時間と手間を要する場合があります。その人がずっと本籍を変えていないか、変えていたとしても同一の市区町村内にとどまっている場合であれば、一度の申請で全ての戸籍謄本を取得することが可能です。
しかし、市区町村をまたいで本籍を移している場合は一度の申請で途中までの戸籍謄本しか取得することができず、それ以前の戸籍謄本は本籍を移転する前の市区町村の役場に改めて申請しなければなりません。
亡くなった方が、何度も市区町村をまたいで本籍を移している場合は、この手続を何度も繰り返す必要があります。しかも、多くの場合は郵送でのやりとりになるため日数を要するので、全ての戸籍謄本がそろうまでに1ヶ月以上かかってしまうケースもあります。
亡くなった方の兄弟姉妹が相続放棄をする場合というのは、亡くなった方に子、孫がおらず、直系尊属(父母、祖父母)も既に全員亡くなっている場合です。その事実を証明するために、上記の戸籍謄本が必要になります。
相続放棄をすることに決まったら、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出します。相続放棄をする人の住所地を管轄する家庭裁判所ではありませんので、ご注意ください。
たとえば、亡くなったときの住所地が大阪であれば、相続放棄をする人が東京に住んでいても大阪の家庭裁判所に必要書類を提出しなければなりません。
必要書類の提出は郵送でもできます。郵送で提出する場合は普通郵便でも構わないのですが、到着を確認することができるように、書留郵便やレターパックを利用することをおすすめします。
また、家庭裁判所に提出した書類は原則として返還されませんので、提出書類一式のコピーを取っておきましょう。
家庭裁判所に必要書類を提出したら、通常はその日の手続は終わりで、家庭裁判所から連絡が来るまで待つことになります。
必要書類の提出を済ませたら、後日、家庭裁判所からの意思確認を受けることになります。相続放棄の申述をした人が本当にご自分の意思で相続放棄の手続をしたのかどうかという点や、どのような理由で相続放棄をするのかなどの点について確認を求められます。
通常は必要書類を提出してから1〜2週間後に家庭裁判所から「照会書」という書類が送付されてきます。照会書は書き込み式になっているので、質問に対する答えを記入して返送します。場合によっては照会書の送付はされずに裁判官との面談が設けられることもあります。
被相続人が亡くなってから3ヶ月以上経過している場合や、相続放棄を申述した人が相続財産に手をつけていると思われる場合、相続人間で遺産分割に争いがある場合など、法律的な問題を審査する必要がある場合は多くのケースで裁判官との面談が設けられます。面談の期日は申述人の都合も考慮してもらえますが、申述してから2週間〜1ヶ月後に設定されることが多いです。
裁判官は刑事の取り調べのように厳しく問い詰めてくることはありませんが、回答次第では相続放棄が認められないこともあります。裁判官との面談には弁護士が同席することもできますので、面談が設定された場合には弁護士に依頼するか、司法書士などの専門家に相談して回答方法のレクチャーを受けておいた方が安心です。
照会書が送付されてきた場合は、ご自分で正直に答えを記入して返送すれば、ほとんどの場合は問題なく手続きが進みます。
照会書に回答したり、裁判官との面談を受けたりした結果、問題がなければ相続放棄が受理されます。照会書の返送や裁判官との面談から1〜2週間後に「相続放棄申述受理通知書」という書類が家庭裁判所から送付されます。この「相続放棄申述受理通知書」が届いたら、相続放棄の手続が完了したことになります。
ただ、被相続人の借金の債権者などから正式な証明書の提出を求められる場合があります。その場合には、別途「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所に発行してもらうことになります。
この証明書を発行してもらうには手数料として1通につき150円分の収入印紙が必要になりますが、何通でもすぐに発行してもらえるので、必要に応じて発行してもらいましょう。
相続放棄をすることができるのは、相続開始から3ヶ月以内です。
相続財産の調査や必要書類の収集に手間がかかったり、仕事がいくら忙しかったりしても、家庭裁判所に何も申立てをしないままこの期限を過ぎてしまうと、もう相続放棄はできなくなるのが原則です。
しかし、場合によっては3ヶ月以内に相続放棄の手続を完了するのは酷なケースがあるのも事実です。そのため、亡くなってから3ヶ月以上が経過しても相続放棄が認められるケースもあります。
そこで、期限が過ぎても相続放棄が認められるのはどんなケースなのか、その場合の手続の注意点についてご説明します。
相続放棄の期限は、正確には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。
そのため、疎遠だった人が亡くなったことを3ヶ月以上経ってから知った場合は、その被相続人に借金があろうがなかろうが、知ったときから3ヶ月以内であれば相続放棄が認められるのです。
難しいケースは、亡くなったことは早い時期から知っていたけれど、3ヶ月以上経ってから思わぬ借金が発覚したような場合です。このような場合でも、借金を相続したことを知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄が認められるケースはあります。
ただし、認められるためには被相続人に借金があることを知らなかったことに相当な理由がなければなりません。そのあたりの事情を裁判官との面談でチェックされ、場合によっては相続放棄が認められないこともあります。
また、相続放棄の申述をするまでに相続財産に手をつけていれば、相続放棄が認められるのはかなり厳しくなってしまいます。
相続財産の調査が複雑で被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に間に合わないという場合は、相続放棄の期間の伸長を家庭裁判所に申立てることができます。ただし、この申立ては3ヶ月の期限内にしておく必要があります。3ヶ月が経過した後に期間伸長の申立てをしても却下されるので注意が必要です。
また、相続財産の調査が3ヶ月で間に合わない事情なども審査されるため、必ずしも伸長が認められるとは限りません。単に仕事が忙しいから時間の余裕が欲しいというだけの理由では伸長してもらえない可能性が高いので、注意が必要です。
相続財産の調査に時間がかかるようなケースであれば、弁護士や司法書士などの専門家への相談・依頼をすることをおすすめします。
戸籍謄本などの必要書類の収集が3ヶ月の期限内に間に合わないという場合は、相続放棄の申述書だけでも期限内に提出して受付をしてもらうという方法があります。
期限内に申述書を受付してもらっていれば、その他の必要書類の提出が期限後になっても期限内の申述として取扱ってもらえます。ただし、いつまでも待ってもらえるわけではないので、必要書類の収集はできる限り早く進めておく必要があります。
仕事の都合などでご自分で必要書類の収集が難しい場合には、弁護士や司法書士などの専門家に書類の収集を依頼してしまうというのも1つの方法です。
このページでは、相続放棄の流れからやり方、必要書類、期限について解説しました。ここまで読んでいただければ、基本的には自分で相続放棄の手続きをすすめることができると思います。
しかし、ケースによっては相続放棄の手続きが複雑になることがありますし、負債額が大きく確実に相続放棄をしたいようなケースもあります。また、役所に行って書類を集めたりすること自体が負担になることもあります。
そのような場合には、弁護士や司法書士などの専門家に相談・依頼することが有効となるケースも多いと思います。無料相談なども活用して、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
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