みなさんは故人の供養といわれると、どのようなやり方を想像するでしょうか。
代表的な供養の仕方は、故人の遺骨をお墓に納め、折を見てお墓へお参りをしたり、一周忌などの年季法要で読経を挙げてもらう、という形でしょう。
しかし最近では宗教観の変化やお墓の継承といった観点から、従来のものとはまた違う新しい供養の方法が模索されてきました。今回この記事でお話しする「手元供養」も、その新しい供養のひとつです。
火葬後に墓地に納骨せずに、自宅で骨壺を保管したり、常時自分の身につけて故人を偲び供養を行う方法です。 従来の供養のシンボルが故人のお墓や位牌であるのに対し、手元供養の対象は、故人の遺骨そのものです。 毎朝仏壇に手を合わせるのではなく、常時遺骨を身につけて故人を思うことが供養となると考えられています。
亡くなった後は、お墓を建てて遺骨を納めるという従来の宗教的な埋葬方法よりも、故人や遺族の人となりを活かした、新しい供養方法を求める人が多くなっています。
墓は子孫に受け継がれるというのが、当然のように行われていました。江戸時代から続いている、墓の継承制度は、大家族が基になっている日本人の生活形態には合っていましたが、近年、少子高齢化によって、墓の継承者がいないという問題が起きています。 そのため、墓の継承者を必要としない永代供養や散骨と同様に、手元供養を始める方が増えているようです。
亡くなられた人が身近であればあるほど、そして大切な人であるほど、遺された遺族の精神的ダメージは大きいものになります。精神的なダメージを自分で克服するための一つの方法として、故人の遺骨を常時身につけるという方法を選択するケースも増えています。
遺骨はお墓に埋葬しなければ、法律違反になるのでは? と考える方もいらっしゃいますが、結論から言うと法律違反に当たりません。 遺骨の処置に関して定めているのは、埋葬法という法律です。制定されたのが昭和23年ですから、すでに70年も前に定められたものになります。
当時、遺骨や遺灰は全て墓に埋葬するものと考えられていました。そのため、法律で埋葬地として許可された場所以外には埋めることを禁止しています。 現在では、供養の方法も多様化しており、埋葬を行わない散骨などの方法も珍しくなくなりました。
法律的な見解では、埋葬法はあくまでも埋葬する場所を規定するものであって、土中に埋める方式ではない散骨や海洋葬、宇宙葬などは法律違反に当たらないというのが、一般的な見方になっています。 同様に手元供養も、遺骨を埋葬するものではありません。自宅に遺骨を置いて供養することも、遺骨を加工して身につけることも法律違反にはなりません。 気をつけなければいけないのは、自宅内に遺骨を保管して供養するのはいいですが、自宅の庭などに遺骨を埋めて供養することは法律違反になることです。
供養方法の多様化やお墓の継承などから、手元供養を選ぶ人が多い。精神的支柱の残らない散骨とは違い、身近に故人を感じることができる。
手元供養は法律違反にはならないが、自宅の庭などに埋葬することは法律違反になるので注意。
手元供養には3つの方法があります。
遺骨をお墓に納骨せずに、全て自宅に保管する方法です。 骨壺を仏壇の下に保管しておくことが多いですが、最近では仏壇を持たない人も多く、部屋の雰囲気にマッチした骨壺に遺骨を納めて自宅で供養を行う方います。
先祖代々のお墓などに納骨した遺骨の一部を取り出して、身につけることができるペンダントなどに加工して供養を行う方法です。
遺骨の一部を加工して身につけたり、自宅に保管して、残りの遺骨は散骨したり、永代供養にする方法です。手元に残った遺骨以外は管理する必要がなくなるので、お墓を建てる必要がありません。
手元供養には遺骨を全て手元供養にするものと、お墓に遺骨を納めて一部のみを手元供養にするもの、一部を手元供養にして、残りは散骨や永代供養にするものの3つがある。
手元供養を選択する理由を見ると、どんな人におススメなのかわかります。
長年連れ添って来た夫や妻、多くの愛情を注いでくれた両親、まだ幼い子供などが亡くなった後、遺された方には大きな喪失感が残ってしまいます。 前向きに生きるためには、少しでも喪失感を和らげて、愛する方が亡くなられたダメージから立ち直らなければなりません。
四十九日までは家にあった遺骨が自宅を離れてお墓に納骨されるとさらに大きな喪失感を感じてしまいますが、故人の遺骨を身につけていれば、亡くなった後でもいつでも一緒にいる感覚があり、遺族にとっては精神的な支柱となります。
少子高齢化により、現存しているお墓を継承してくれる子孫がいないという問題が起きています。 お墓の相続は、相続税もかからず、血縁関係が無い人でも継承できるのですが、やはり基本的には自分の子孫がお墓を継ぐものと考えられています。 遺骨を自宅で保管する供養を選ぶことで、将来的なお墓の継承を不安に思うこともなくなります。
遺骨全てを自宅に保管する場合は、自宅で供養している人が亡くなった後に、遺骨をどうするかという問題が発生しますが、自分が亡くなられた後は、家にある遺骨と一緒に永代供養をする流れを生前に予約をしている方も多いようです。
先祖代々のお墓に納骨するのであれば、費用はそれほどかかりませんが、自分でお墓を建てることになると、永代使用料が50~80万、墓石の費用が50~200万円程度が相場になっています。 個人で墓を建てるよりも費用が安い永代供養でも30万円は用意しなければいけません。経済的な理由で、お墓を建てることができない、遺骨を預けることができないという人でも、手元供養ならば、ほとんどお金をかけることなく故人の供養ができます。
手元供養は、個人といつも一緒にいたいと思っている、お墓の継承について不安がある、経済的な理由でお墓の建立が難しい人に向いている。
手元供養を始める方が増えている理由の一つに、豊富な供養アイテムを挙げることができます。人気のあるアイテムや、個性的なアイテムを紹介します。
自宅に置くタイプの供養アイテムは、以下のものが挙げられます。
お墓に埋葬する骨壺は素焼きのものが多いですが、自宅で使用する骨壺は、部屋の雰囲気にマッチするように、檜でできたものや、鉄製のものなど素材も様々です。 骨壺=白というイメージもありますが、カラフルな色使いやデザイン性の高いものも多く、部屋に置いてあっても一目で骨壺とはわからないものも多いです。
内側に小さな骨壺を収めるスペースがある置物タイプです。様々なデザインのオブジェが販売されています、癒しと和みを与えてくれるお地蔵様のオブジェなどは、定番の人気商品となっています。
釉の中に砕いてパウダー状にした遺骨を混ぜて焼き上げた花瓶も人気の商品です。毎日お花を花瓶に挿すことにより、故人への供養も自然に行えるというものです。 釉薬に入れる遺骨の量には限界があるので、大量の遺骨の保管には向いていません。
故人の写真を入れるフォトスタンドと、骨壺を収めるスペースが一緒になっているタイプも定番の人気商品になっています。仏壇よりもスペースを取らないので、手元供養ではない場合でも、仏壇の代わりに毎日故人を偲ぶアイテムとして利用される方もいます。
以下ることで供養ができるアイテムです。
大事な人といつも一緒に過ごしたいと思う方は、自宅に遺骨を置くよりも自分で身につけるペンダントやリングを選ぶ方が多いです。 素材はシルバーやゴールド、クリスタルなど、一般的なペンダントと同じもので作られており、デザインも素敵なものが多いので、他から見てペンダントの中に遺骨が入っていることは絶対にわからないでしょう。
表面に遺骨を収めるものや、リングの裏側に収めるタイプがあります。 ペンダントなどのアクセサリーとは違い、水に触れたり、激しい動きにも耐えられるように樹脂加工をして完全防水の状態で収められています。 遺骨と一緒に誕生石を砕いて収めるタイプのものもあり、普段使いをしても全く問題がありません。
お守り袋の中に遺骨を収納するアイテムです。 身につけるアイテムの中でも、ペンダントやリングのように加工する必要がないことや、素材が布製で安価なことから手軽なアイテムとして人気があります。 故人からいつも守られていると感じることで、故人を偲び、感謝することも多くなり、故人への追善供養に繋がります。
全ての遺骨を自宅で供養するのではなく、遺骨の一部を加工して身につける手元供養の場合は、残った遺骨についてはどのように供養すればいいのでしょうか?
具体的には、以下のような方法があります。
先祖代々の墓や、既に個人の墓がある場合なら、遺骨の一部を取り出して残りは墓に納骨して供養します。自分のお墓を建てていない場合は、親戚のお墓などに納骨させてもらう方法を取る方もいます。
残りの遺骨を納める墓がない場合や、墓の継承について不安を持たれている方は、散骨する方法を取られることも多いです。 散骨供養のデメリットの一つとして、お墓など個人を供養する対象がなくなって寂しい思いをすることがありますが、一部を自分で身につけたり、自宅に保管することにより、寂しさを感じることもありません。
将来的に子孫に面倒をかけたくないということで、永代供養を選ぶ方も多いです。 永代供養の大きなメリットは、故人で墓を建てるよりも費用が安くすむことですが、他の人との合祀には抵抗がある人も少なくありません。 手元供養では、一部の遺骨を残し個人として供養することができるので、残りの遺骨を合祀しても抵抗がないという方も多いです。
いかがでしたでしょうか。今回は手元供養とはどんな供養方法なのかというお話をしました。
価値観の多様化に伴って、供養の方法も様々な形のものが現れてきました。手元供養もその一つです。現代を生きる私たちにとってはベストな選択肢のように思えますが、デメリットがあることも事実。よくよく検討してからご選択ください。
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