お焼香は、葬儀では必ず行われる儀式の一つ。香りのする粉を指先でつまみ、香炉に移す一連の動作を、葬儀に参列したことのある方ならばも経験したことでしょう。
しかし、お焼香の宗教的な意味合いだったり、宗派によってお焼香のやり方が微妙に異なることなどは意外と知らない方が多いのではないでしょうか。お焼香の考え方や作法を事前にしっかり確認しておけば、ご遺族にも失礼のない対応ができることでしょう。
葬儀や法事で抹香を使用して、拝む儀式のことを言います。抹香とは、シキミの葉や皮を粉末にしたお香のことです。お焼香では、この抹香を手で掴んで、香炉の中で落として香りを出します。仏教では、香りは仏様の食べ物であるという考えがあります。
仏様や故人様のとめに焚かれると誤解している方が多いですが、参列者自身の心身を浄化させる目的で行う儀式です。心身を清浄な状態にいて、しっかりと故人様と向き合えるような状態にすると意味合いからお焼香は焚かれます。
また、お焼香の香りは会場内に広がっていきます。香りが広がることは、仏教の教えが広がっていくという意味合いがあります。抹香は良い香りがしますが、時間が経過すると灰になってしまいます。これは、人はいずれ消えてなくなってしまうことを意味があるのです。
このようなお焼香の意味を把握した上で、お焼香を行えば想いを込めて故人様を弔うことができるでしょう。
香を焚くという行為自体は、紀元前500年頃から行われている古い儀式です。発祥地はインドになります。インドでは、古くから腐敗や臭気を防ぐための術として、生活に香を出しました。
ご遺体は放置しておくと腐敗臭が漂います。気温や湿度の影響で腐敗の進行が早まることもあるでしょう。そのような腐敗臭を消す目的でも、お香は重宝されていたのです。
そのようなことから、仏教でもお焼香の儀式が取り入れられるようになったのです。昔の葬儀では、今のようにドライアイスなど遺体の保存技術もなかったため、焼香でご遺体の匂いを消す方法は、とても実用的で重要だったのです。
お焼香はシキミの葉や皮を粉末にした抹香を手で掴み、高炉に落として香りを広げる一連の動作をいう。古代インドに始まった遺体の腐敗臭を消すための方法だが、現在では宗教的な意味合いが強い。
お焼香の方法には、葬儀会場や弔問者の数に応じて以下の3種類あります。
それぞれのやり方を覚えておきましょう。
立礼焼香とは、座席の式場の場合に多く用いられるスタイルです。喪主やご遺族の次に、参列者がお焼香します。順番が案内されたら、隣の席の方に軽く会釈をして焼香代へと向かいます。
1.祭壇に進んでいき、ご遺族の方に一礼します。また、故人様にも向かって一礼して合掌します。
2.親指、人指し指、中指で抹香を摘まみ、額の高さで押しいただきます。
3.抹香を高炉にくべます。
4.故人様に向かって合掌します。
5.一歩下がり、故人様に向かって一礼して、席に戻ります。
座礼焼香とは、畳敷きの式場の場合に用いられるスタイルです。座礼焼香の場合も、立礼焼香の作法と基本的には同じです。立礼焼香と異なる点は、立ち上がらないということでしょう。このときの移動方法を「膝行・膝退(しっこう・しったい)」といいます。親指だけ立てて、他の指を握り、両腕を身体の両脇よりも少し前に置き、体を持ち上げるようにしながら膝を前に出して移動します。そして、正座でお焼香しましょう。
1.腰を屈めて焼香代へ向かい、ご遺族に一礼、故人様に一礼をします。
2.親指、人指し指、中指で抹香を摘まみ、額の高さで押しいただきます。
3.抹香を高炉にくべます。
4.故人様に向かって合掌します。
5.両手を使って膝立ちをして、そのままの姿勢で後退します。中腰になったら僧侶やご遺族の方に一礼して、席に戻ります。
廻し焼香とは、お盆に乗せた香炉と抹香を参列者に順番に廻していく方法です。参列者が多く、会場に人が溢れている場合に廻し焼香が採用されます。
1.香炉が回ってきたら、前の順番の方に軽く会釈をして、自分の目の前に置きます。
2.故人様に向かって軽く合掌します。
3.数珠を左手で持ち、右手の親指、人指し指、中指で抹香を少量摘まみます。
4.目を閉じて、頭を軽く下げて、抹香を摘まんだ手を額の高さまでかかげます。
5.つまんだ抹香を静かに香炉に落とします。
6.合掌して故人様のご冥福を祈ります。
7.両手で香炉を次の方に回します。
お焼香は、右手の親指・人指し指・中指の3本の指で摘まむようにします。そして、摘まんだ抹香を高炉にまく回数ですが、これは宗派によって異なってきます。また、抹香を摘まんだ右手を香炉に移す前に額の額の前まであげることを押していただく」と呼びますが、その回数も宗派によって異なります。葬儀に参列する前には、回数を確認しておきましょう。
宗派 | 回数 | 解説 |
---|---|---|
真言宗 | 3回 | 三業を清めて、三宝に捧げるという意味合いを込められています。 |
曹洞宗 | 2回 | 最初のお焼香を主香、2回目のお焼香を従香と言います。主香が故人様のご冥福を祈って行うお焼香で、従香は主香が消えないようにお香を加えます。 |
浄土真宗本願寺派 | 1回 | 本願寺派では「香をお供えする」という意味で、1回となります。 |
浄土真宗大谷派 | 2回 ※押しいただく回数は0回 |
仏様へのお供えという意味合いと、薫習するという意味があります。 |
臨済宗 | 1回 | 臨済宗の回数は特に決められていません。そのため、各1回ずつ行うようにしましょう。 |
日蓮宗 | 1回 | 日蓮宗の回数は寺や地域によって異なります。 |
天台宗 | 3回 | 天台宗の回数は特に決められていません。 |
お焼香の回数は宗派によって異なりますが、回数が異なるには理由があります。
1回の場合は「一に帰る」と捉えています。また、2回行う場合は主香・従香という1本目に祈念して、2本目の1本目の香りを絶やさないようにという意味合いが込められているのです。
3回は、仏教においては、三業、三毒などを清めるという意味合いや、三宝に香を捧げるという意味合いが込められています。このように、回数によって意味が異なってくるため、宗派ごとに回数が変わってきます。故人様やご遺族に失礼のないような対応を心がけたいと思った場合は、事前に葬儀社に回数について確認しておくと安心できるでしょう。
真言宗では3回、浄土真宗では宗派によって1回や2回など、宗派によってお焼香の回数が異なるほか、お焼香の意味合いも宗派によって違う。故人様やご遺族に失礼のないようにしたい場合は、事前に葬儀社や菩提寺に確認を取ると良い。
お経をあげてもらう間に、滞りなくお焼香が済ませられるように事前準備を行いましょう。ここでは、お焼香をスムームズに済ませるための事前準備について解説します。
お焼香の準備は以下のように進めていきます。
香炉には、火をつけた抹香を直接入れるわけではありません。そのようなことをしたら、容器が溶けてしまう恐れがあります。そのような事態を避けるためにも、香炉には灰を入れておきます。火がついた抹香が容器にあたらず、お経が読み終わるまで、抹香の熱に耐えられるでしょう。同じ香炉を長く使用している場合は、炭が固く締まっていることもあります。その場合は、灰を新しいものに取り換えるようにしましょう。
香炉には前と後ろの向きがあります。どちらが前なのか確認するには、香炉の足を確認しましょう。足が3本の場合は、1本の足が前にくるように設置します。また、香炉には、紋が入っていることがあります。このような紋が入っている場合は、紋を正面に向けて設置しましょう。
抹香には、さまざまなタイプのものがあります。形や大きさによって異なりますが、火をつけて準備しておきます。法要の長さは45分前後が目安のため、お香を焚くタイミングは、法要が始まる15分前がベストなタイミングです。抹香の香りを立ち上がらせておく必要があるため、葬儀が始める前には焚いておきましょう。
いかがでしたでしょうか。お焼香は葬儀の中でも重要な意味合いを持つ儀式です。その宗教的な意味合いを理解し、宗派ごとに異なるやり方をおさえておけば、故人様やご遺族の方々に対して誠実な対応ができることでしょう。