相続と聞いてトラブルが思い浮かぶ人は少なくないでしょう。メディアでも、相続財産をめぐってのトラブルの事例が定期的に取り上げられます。
それを避けるために土地などの財産をを配偶者や子供に生前贈与したいと思っているけれど、税金の制度や手続きがよくわからないという方はいませんか。この記事で、生前贈与の際に利用できる制度や手続き、注意点を説明します。
相続税を抑えるために、生前贈与を検討する方は多いですが、不動産を生前贈与するメリットはどのようなことが挙げられるのでしょうか? ここでは、不動産を生前贈与するメリットについて解説します。
不動産の生前贈与には、以下のようなメリットがあります。
生前贈与を行うメリットは節税効果です。節税効果を生むのは、主に暦年贈与と呼ばれる生前贈与のことです。具体的に「110万円×相続人数×10年」の控除が利用できます。そのため、相続人の人数が多いほど、大きな節税効果が期待できるのです。また、相続時精算課税制度や住宅取得資金贈与、贈与税の配偶者控除なども適用できます。
生前贈与は、いつ、誰に、何を贈与するのかを選択することができるため、土地や不動産、有価証券など価額が普遍でないものを渡したい場合でも、将来的に値上がりする前に贈与することで節税につなげることができます。
遺言書でも誰に贈与するかは指定できますが、遺言書を作成せずに突然病気や事故に遭い亡くなることもあります。協議で遺産分割する場合は、なかなか話がまとまりません。しかし、生前贈与を選択すれば、誰に贈与するかを選択することができるため、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。
実際に、不動産を生前贈与するための流れについて説明します。
契約は口約束でも成立しますが、口約束だとトラブルが発生する恐れもあるため「不動産贈与契約書」を作成します。この不動産贈与契約書は「いつ」「誰が」「誰に」「何を」贈与するのか記載するため、トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。 また、不動産を贈与する場合は登記費用や税金が発生するため、これらの費用を誰が負担するかも記載しておくことをおすすめします。契約書を作成したら署名・捺印をしてください。贈与契約書を作成すると、取り消すことはできないため注意が必要です。
法務局に出向いて、不動産の名義変更の申請手続きを行います。この申請を行う法務局は、どこの法務局でも良いという訳ではなくて、当該不動産の住所を管轄する法務局への申請が必要です。登記申請書を作成して、法務局へ提出します。登記に関する書類の準備を素人が行うと手間と時間がかかります。そのため、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
不動産の生前贈与をする場合は、贈与税がかかります。納税者自身が税金の計算をして、税務署に申請と納税を行います。
生前贈与による不動産名義変更に必要な書類は以下の通りです。
贈与者 | ・登記識別情報通知(登記済権利証) 対象不動産 ・印鑑証明書 3ヵ月以内のもの |
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受贈者 | ・住民票 期限はとくに関係なし |
その他 | ・固定資産評価証明書 名義変更する年度のもの ・贈与契約書 贈与が行われることがわかる書類 |
贈与登記の費用とは、登録免許税等の実費と司法書士への報酬との合計額をいいます。 贈与登記を自分自身で行う場合は、実費の費用のみが必要で、司法書士に登記を依頼する場合は、司法書士への報酬が加算されるというこです。
実費の具体的な内訳は、下記の通りです。
項目 | 金額 |
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登録免許税 | 不動産評価額×2% |
印紙代 | 契約書1通につき200円 |
住民票代 | 300円 ※市区町村ごとによって異なる |
印鑑証明書代 | 300円 ※市区町村ごとによって異なる |
評価証明書代 | 300円 ※市区町村ごとによって異なる |
登記簿謄本代 | 不動産の数×600円×2(登記前と登記完了後用) |
交通費通信費 | 事案により異なる |
※法務局によっては評価証明書の代わりに、固定資産税の課税明細書を提出すれば足りることもあります。この場合は、評価証明書代は不要となります。
贈与登記を司法書士に依頼すると実費に加え、司法書士報酬が費用に加わります。報酬は司法書士事務所ごとや事案によって異なるので、ここでは相場をご紹介します。
項目 | 金額 |
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贈与登記 | 27,000円~ |
書類作成 | 10,800円~ |
調査 | 5,400円~ |
書類取得 | 1通につき1,080円 |
登記簿謄本取得 | 1通につき1,080円 |
生前贈与には、さまざまな制度があります。ここでは、生前贈与を行う際の税務上の留意点をご紹介します。
生前贈与で税金を課税する方法として基本となるものが暦年課税制度です。暦年課税制度とは、1年間を単位として、その年度で贈与した金額に対して、税金を課することをいいます。贈与税には、納税者本人に対する年間110万円の基礎控除があり、この範囲での贈与であれば税金はかかりません。この暦年課税制度を適用する場合は、次のことに注意してください。
暦年課税制度は便利な制度ですが、定期贈与とみなされないように注意が必要です。定期贈与とは、毎年同じ程度の金額を贈与することをいい、それらをまとめて1つの贈与とみなされることを言います。たとえば、毎年100万円ずつ20年間贈与すれば、合計2,000万円の財産を非課税で贈与できることになりますが、税務調査が入ってしまい、2,000万円に対する贈与税を納めなければいけないのです。このような事態にならないように、贈与契約書をシッカリと作成しましょう。
また、相続開始前3年以内に贈与された財産は、相続財産に含めて相続が行われます。その理由は、ある程度、相続の時期が分かった段階で、相続の負担を軽減することを目的とした贈与を防ぐための制度です。この時期に贈与しても節税効果は見込めません。
相続時精算課税制度とは、制度を適用した場合は合計2,500万円までの贈与税が非課税となる制度のことをいいます。しかし、相続時に相続税が課税されるため、基本的には節税効果は見込めません。しかし、贈与時から相続時までに時価が大幅に上昇する財産を、相続時精算課税制度で贈与する場合は、大きな節税効果が期待できます。この相続時精算課税制度を適用する場合は、次の点に注意をしてください。
相続時精算課税制度を利用して贈与をおこなった場合は、それ以降の贈与は、すべて創造時精算課税制度での贈与となるため、暦年贈与制度が適用できなくなります。
暦年贈与の場合は、100万円の基礎控除があるため、年間110万円以下の贈与であれば非課税の対象となり、贈与税の申告をする必要がありません。しかし、相続時精算課税制度を利用して贈与をおこなった場合は、税務署に申告手続きをする必要があります。
小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、その土地に小規模宅地等の特例を適用することができません。
不動産の贈与を行う際の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の配偶者から、一定の要件を満たす不動産の贈与をする場合、その年分の贈与税に係る贈与価格から最大2000万円が控除されるというものです。この配偶者控除を適用する場合は、次のようなことに注意してください。
配偶者控除を適用する場合は、専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋で国内にあるものをいいます。また、贈与のあった年の翌年3月15日まで当該居住用不動産を居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みであることが要件となっています。
これまで、生前贈与について説明をしてきましたが、最後に注意点についておさらいをしましょう。具体的には以下の4点です。
毎年100万円を10年間にわたって贈与した場合は、税務調査が入り総額1,000万円に対しての贈与税がかかる恐れがあります。暦年贈与制度を適用して悪質な相続対策をしたとみなされるためです。そのため、毎年一定額ずつを相続対策のために贈与する行為は控えましょう。
父親が子供名義で貯金をしていることもあると思います。子供名義の銀行口座を開設して預金をし、預金通帳や印鑑などをすべて父親が管理しているような状況、これは贈与対象外です。
家族間の贈与だと契約などを無視してしまいがちな傾向がありますが、贈与の成立を証明するための証拠として、必ず贈与契約書を作成しましょう。
暦年贈与の制度を適用すれば、年間110万円以内の贈与であれば非課税になりますが、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産は、すべて相続税の対象となり相続税を計算しなければいけないというルールがあります。知らずにいると、莫大な相続税を支払わなければいけなくなってしまうため注意してください。
いかがでしたでしょうか。今回は不動産の生前贈与についてのお話をしました。
贈与については非常に複雑なルールが設定されているため、知らずに財産を贈ってしまうと多額の税金を納める羽目になる危険性があります。生前贈与を考えているなら、贈与にかかわる税金のしくみを理解したうえで、落ち着いて手続きを済ませましょう。